ヤングケアラーとは

○ヤングケアラーには法令上の定義はありませんが、このマニュアルでは、ヤングケアラーを「一般に、本来大人が担うと想定されているような家事や家族の世話などを日常的に行っていることで、負担を抱える、もしくは、子どもの権利が侵害されている可能性がある18 歳未満の子ども」として捉えています。
○ただ、上記の状況に当てはまるかどうかで「ヤングケアラー」であると判断することを求めるものではありません。例えば、現時点ではそのような状況におかれていない子どもであっても、将来的に負担を抱えるかもしれないといった早期発見・早期介入の考え方も重要であり、その観点からも本マニュアルを活用いただけることを期待しています。
○大切なのは、ヤングケアラーであると思われる子どもを見逃すことなく把握し、本人からしっかりと話を聞いた上で、その子どもや家族がおかれている状況を理解し、それを踏まえて必要な支援は何かを検討することです。
○下記にヤングケアラーが行っていることの例を挙げますので、ヤングケアラーなのではないか?と気づくためのヒントとして、参考にしてみてください(「2.2」では本事業におけるアンケート調査結果等を用いてヤングケアラーがおかれている多様な状況を紹介していますので、適宜ご覧ください)。

ヤングケアラーはこんな子どもたちです

 家族にケアを要する⼈がいる場合に、⼤⼈が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情⾯のサポートなどを⾏っている18歳未満の⼦どもをいいます。

障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている


家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている


障がいや病気のあるきょうだいの世話や⾒守りをしている


⽬を離せない家族の⾒守りや声かけなどの気づかいをしている


⽇本語が第⼀⾔語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている


家計を⽀えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている


アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している


がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている


障がいや病気のある家族の⾝の回りの世話をしている


障がいや病気のある家族の⼊浴やトイレの介助をしている


ヤングケアラーと関係の深い子どもの権利

○ヤングケアラーと思われる子どもを見逃すことなくキャッチするには、上記の「ヤングケアラーが行っていることの例」のような、子どもが日常的に送っている生活がどのような状況であるかといった視点とともに、子どもの権利条例に定められた権利が侵害されている可能性がないかといった視点も重要になります。
○子どもの権利条約では様々な子どもの権利が定められており、その中でもヤングケアラーと関係が深いものとしては、教育を受ける権利や休み・遊ぶ権利をはじめとして、意見を表す権利、健康・医療への権利、社会保障を受ける権利、生活水準の確保などが挙げられます。
○子どもの権利が侵害されているのではないか、または権利の侵害までには至らなくとも、支援を必要としているのではないか、と感じる場合は、そのまま見過ごすことをせず、まずはその子どもやその子どもがケアしている対象者の状況をよく確認してみてください。その際、客観的な状況のみならず、子どもの内面・気持ちにも気を配りましょう。

家庭内での役割(家族のケアやお手伝い)が子どもにもたらす影響

○子どもが果たす家庭内役割(家族のケア、お手伝いの範囲や程度)は、時代、文化、地域などによって異なります。子どもの年齢や成熟度に合った家族のケア、お手伝いは子どもの思いやりや責任感などを育みます。
○一方で、子どもの年齢や成熟度に合わない重すぎる責任や作業など、過度な負担が続くと、子ども自身の心身の健康が保持・増進されない、学習面での遅れや進学に影響が出る、社会性発達の制限、就労への影響などが出てくることがあると報告されています10。ここでいう過度な負担とは、実質的なケア時間などの量的な負担だけでなく、本来大人が果たすべき責任や精神的な苦しさを伴うケアなどの質的な負担も含まれます。
○具体的には、過度に家族のケアを担うことで、勉強に取り組むことや子どもらしい情緒的な関わりができず、年齢相応に自身の将来のことを考えることができなくなってしまう可能性があります。また、家族の期待に過剰に適応するあまりに、家族に負担をかけてはいけないと自分の希望を言えなくなったり、進学を諦めてしまったりすることも考えられますし、家族のケアが長期化することで自立が遅くなったり、できなくなってしまう可能性もあります。

子どもの権利条約のうち、ヤングケアラーと関係の深い子どもの権利

第28 条 教育を受ける権利

 子どもは教育を受ける権利をもっています。国は、すべての子どもが小学校に行けるようにしなければなりません。さらに上の学校に進みたいときには、みんなにそのチャンスが与えられなければなりません。学校のきまりは、子どもの尊厳が守られるという考え方からはずれるものであってはなりません。

第31 条 休み、遊ぶ権利

 子どもは、休んだり、遊んだり、文化芸術活動に参加する権利をもっています。

第3条 子どもにもっともよいことを

 子どもに関係のあることを行うときには、子どもにもっともよいことは何かを第一に考えなければなりません。

第6条 生きる権利・育つ権利

 すべての子どもは、生きる権利・育つ権利をもっています。

第12 条 意見を表す権利

 子どもは、自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利を持っています。その意見は、子どもの発達に応じて、じゅうぶん考慮されなければなりません。

第13 条 表現の自由

 子どもは、自由な方法でいろいろな情報や考えを伝える権利、知る権利をもっています。

第24 条 健康・医療への権利

 子どもは、健康でいられ、必要な医療や保健サービスを受ける権利をもっています。

第26 条 社会保障を受ける権利

 子どもは、生活していくのにじゅうぶんなお金がないときには、国からお金の支給などを受ける権利をもっています。

第27 条 生活水準の確保

 子どもは、心やからだのすこやかな成長に必要な生活を送る権利をもっています。親(保護者)はそのための第一の責任者ですが、親の力だけで子どものくらしが守れないときは、国も協力します。

第32 条 経済的搾取・有害な労働からの保護

 子どもは、むりやり働かされたり、そのために教育を受けられなくなったり、心やからだによくない仕事をさせられたりしないように守られる権利を持っています。

自身がヤングケアラーである、もしくはその可能性があると感じている方、そのご家族の皆様へ

○家庭内での役割として子どもが家族をケアすることは、家族の絆を強め、思いやりや責任感などを育むことにつながるなどの良い側面があります。一方で、子どもの年齢や成熟度に合わない重すぎる責任や作業など、子どもにとっての過度な負担が続くと、子ども自身の心身の健康や安全や教育に影響が出てしまうことがあります。
○家族で支えあっていくことがつらいと感じた時、外部のサービスを利用することで、負担を軽減できる可能性があります。本マニュアルの「3.5.2」でヤングケアラーやそのご家族等が利用できるサービス例を紹介していますので、是非参考にしてみてください。
○サービスの利用希望がある場合も、そうではない場合も、家族のケア等でつらいと感じる時などは学校の先生、自治体(市区町村)、普段家族が利用する介護事業所や障害福祉サービス事業所、病院、その他にも民生委員・児童委員、主任児童委員や児童館など、地域にいる身近な大人に相談してみてください。

地域の皆様へ

○ヤングケアラーやその家族と日頃から接する地域の皆様は行政機関や支援事業所の支援者よりも身近な存在といえるでしょう。もしヤングケアラーと思われる子どもを発見したら、本人に対して気にかけていることを伝え、いつでも相談にのると伝えるだけでも助けになる場合もあります。
○また、ヤングケアラーは本人の成長やケア対象者の状況の変化に伴い、ケアに対する負担感にも変化が生じる場合があります。日頃子どもと接する中で変化に気づいた際など、気になる点があれば是非行政機関に相談してください。

 

参考:
多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル
~ケアを担う子どもを地域で支えるために~
令和4年3月 有限責任監査法人トーマツ